「ソフトダーツ U-22 トーナメント」は、2009年に開催された「ソフトダーツ U-19 トーナメント」を前身とするダーツライブ主催のユース大会です。今年で開催10周年を迎えます。
もともとこの大会の目的は、全国にいるユースプレイヤーの発掘。実際に、大会出身者のなかで野毛駿平選手や坂口優希恵選手など、国内プロツアーで年間の上位争いに食い込むほど活躍されているプレイヤーもいるほどです。
もう一つの狙いは、エンジョイ層(※)が試合の存在を知り、参戦する機会を作ること。「真剣勝負することの楽しさ」を体感することで、もっとダーツに熱中してもらおうというものです。アマチュアプレイヤーの方でも、一度大会に参加したことから対戦相手への振る舞いやマナーを学び、ダーツに対する姿勢に変化があった方もいるようです。
※ ここでは、投げることの楽しさを優先している方を指します。
大会の転機となったのは、2018年。それ以前から大会ルールに記載されていた「禁酒・禁煙」について、大会運営が対策を強化しました。成人しているプレイヤーもたくさん参加するなか、この大会に参戦しているときは「禁酒・禁煙」を徹底してほしい、という大会運営側のメッセージを強調したのです。そして2019年には、大会名称を「スポーツダーツ選手権大会U-22」に変更。さまざまな取り組みをおこない大会のクリーンさをPRしていきました。
今回は、2019年度開催の「スポーツダーツ選手権大会U-22」担当者におこなったインタビューを掲載します。
大会の名称変更について
2019年に大会の名前が変わりましたね。名称変更には、どういう狙いがあったんですか?
「スポーツ」というイメージを押し出したかったんです。ユースプレイヤーが集まる大会ですし、改めてクリーンな印象をもってもらいたかったという気持ちで名称変更をしました。また、2019年の段階で「スポーツダーツプロジェクト」に向けて準備が進んでいたことも理由のひとつです。この大会が「スポーツダーツプロジェクト」にとっても、大切な要素のひとつだったので。
これまでになかった「他業種」の企業や団体の協力
「スポーツダーツ選手権大会U-22」は、ダーツ業界以外の企業や団体にいろいろなご協力をいただきました。これまでにない取り組みでしたね。
他団体への働きかけの意図としては「この大会に出てみたい」という気持ちをユースプレイヤーに持ってもらいたかった、というのが大きいですね。例えば、誰もが知っている企業やブランド、有名なスポーツ選手が使っているアイテムを作っているメーカーが、大会に協力していたら「おっ!」となりますよね。
確かに! 普段目にするものが関係してくると、大会が身近に感じられます。
そういう感覚ってかなり大切だと考えていて、例えばその企業やメーカーの商品が好きな方にも、ダーツのユース大会があるんだ、という情報が伝わりやすくなると思いました。
ダーツをする若者でも、大会が開催されていることを知らない方はたくさんいます。それは企業や団体側も同じで・・・ダーツ業界以外の方は、ダーツが「競技」であることも、大会が開催されていることも知りません。バラエティ番組のダーツをイメージする方、もしくはバーなどお酒があるシーンを思い浮かべる方が多いようです。
「ダーツってプロスポーツなの?」「プロの大会があるの?」といった質問をいただく機会は確かに多いです・・・。
だからこそ「スポーツダーツ」という名称と共に大会のクリーンさをPRしました。「若年層がダーツで真剣勝負する」という場があることを知らせることが、ダーツ業界以外からの協力を得ることにつながると考えたんです。ダーツ業界以外の理解を得ることや情報が広がることが、大会を大きくするきっかけになると信じていました。
成人プレイヤーもいるなかでの「禁酒・禁煙」の徹底
成人の方も参戦する大会で、参加プレイヤー全員に「禁酒・禁煙」を徹底したのはなぜですか?
個人が嗜むだけなら、お酒やタバコが一概に「悪い」とは言えません。ですが、大会に参加する=同じ空間にいるということを考えた時に、どうしても意味合いが変わってきます。
未成年の参加者がいる環境での喫煙は受動喫煙に繋がりますし、飲酒によってプレイヤーが酩酊し試合に悪影響が出ることも考えられます。成人のプレイヤーが多いことは理解していましたが、「禁酒・禁煙」の対策を強化して大会を開催してみようと決めました。チャレンジだったんです。
決勝大会でも、U-22大会参加者は専用ギグバンドをつけるなど、一目で「禁酒・禁煙のルール下にいるプレイヤー」とわかるような対策がされていましたね。
ギグバンドもそうですが、2018年からは大会受付時にアルコールチェックも行っていました。決勝大会の参加者には、あらかじめアルコールチェックの実施を伝えていましたが、参加者全員がチェックをパスしました。本当に誰もお酒を飲まずに、大会に臨んでくれたんです。
ルールとはいえ、参加者全員が協力してくれたということですね。
そうです。参加プレイヤーの一番の目的は「自分のダーツの腕を試すこと」。自分の腕を試すことができる大会が「禁酒・禁煙」を呼び掛けているのなら、たとえ自分が成人していてもルールはきちんと守る。真面目なプレイヤーばかりだったことに感動しました。
「最年少のトリオスチーム」が優勝を掴む
「若い」といえば、トリオス部門で優勝したチームは特に年齢が低かったですね。
そうなんです。優勝した中国①チームの3人の年齢は、12歳・12歳・10歳。大人顔負けの気迫あふれるダーツと、試合後のあどけなさが非常に印象的でした。
最年少チームが優勝。決勝台(ステージ)での振る舞いも堂々としていて、とても印象的でした。彼らの巧さには、何か秘訣があったんでしょうか?
試合後にインタビューしたところ、ダーツ歴はまだ2~3年。この時期は夏休みだったから、1日7~8時間練習できたと語ってくれました。10~12歳のプレイヤーが、7~9歳の頃にはもうダーツを始めていたということですよね。運動能力が高い時期にダーツを始めて、夏休みは集中練習できる。そういう環境が、勝利の秘訣になったのだと思います。
「スポーツダーツプロジェクト」が目標にしている環境のひとつですね。とにかく早い段階からダーツに触れられて、部活のように練習ができる。
ちなみに、女子シングルス部門には9歳のプレイヤーが出場していました。彼女も中国からの参戦でした。
9歳!?
さらに若いプレイヤーが出場していたんですね・・・すごいです。
ちなみに、決勝大会に参加した日本人の最年少プレイヤーは14歳、最年少の入賞者は16歳でした。それすらかなり若いと思っていたので、9歳・10歳のプレイヤーの登場には本当に驚かされました。
確かに・・・日本では、中学生でダーツをプレイしている方は多くない印象です。実際「U-22」の決勝大会で、入賞する10代のプレイヤーはかなり珍しいですよね。
そうなんです。U-22の参加者の多くは19~22歳。「U-22に参加できるのは今年で最後」というプレイヤーたちが、毎年たくさんいます。日本でダーツが普及した背景にはバー文化があり、保護者の方がダーツ関係者だったりお店を経営されている場合を除き、多くの方はお酒が飲めるようになってからダーツを始めます。大人になってから「もっと早く始めていれば」と思ってしまうことは、とても苦しいですよね。
そう考えながらダーツを投げ続けるのは、かなり苦しいですね・・・。ダーツそのものが楽しくなくなってしまいそうです。
「もっと早く始めていたら」というのは、年齢に限った話ではないと思っています。例えば、地方に住んでいる若いプレイヤー。住んでいる地域によっては「地方予選の開催店舗が遠すぎて行けない」というプレイヤーもいるわけです。実はすごく実力があるのに全国で活躍できなかったり、会場までの距離を理由に力試しの機会を諦めてしまったり。そうしているうちに、ダーツをやめてしまう子がいるのかもしれません。それは大変な機会損失だと思っています。
わかります、とてもわかります。ド田舎の出身なので、とてもわかります・・・。
わかっていただけて嬉しいです・・・。そこをどうにかしたくて「スポーツダーツ選手権大会U-22」では、全国に設置されたマシンを通してオンライン対戦での予選を実施しました。参加条件が限られていることは変わりませんが、店舗予選には出場できなくても最寄りのマシンからオンラインで参戦できる、という状況を作りました。参戦の選択肢をひとつ増やせたと思います。
地方在住のプレイヤーを掬い上げるためにも、台数増加やプレイ環境を整える活動に今後も尽力していきたいです。
野望は「U-22の参加プレイヤーの”年齢幅”を広げること」
さまざまな新しい取り組みを常におこなわれていますが、今後のユース大会においてやりたいことなどはありますか?
ユース大会に参加する若い世代の「年齢幅」を広げることです。
先にも話しましたが、U-22の大会参加者は19~22歳のプレイヤーが多い。早い段階からダーツをプレイする人がもっと多くなれば、大会参加者の「年齢幅」も広がるはずです。
もし10代のプレイヤーが増えれば「小学生の部」「中学生の部」「高校生の部」など、年齢によって区切りをつけて運用することもできます。区切りができることで入賞者も増え、大会上位を目指すモチベーションも高まる。入賞=成功体験ですから「もっとうまくなりたい!」「勝ちたい!」という気持ちも高まる。ダーツを長く続けて、楽しんでもらえる理由になると感じています。
逆に、課題はなんでしょうか?
若い世代が、気軽にダーツに触れられる環境を整えることですね。こちらの記事にもあるように、「スポーツダーツ」を普及させることが、この課題を解決する糸口になると考えています。いつか「スポーツダーツ」の大会で大人と子どもが真剣勝負をする、なんてとても夢のある話だと思います。それを実現させたいです。
もちろん私も、「ダーツとお酒」は完全に縁を切ることはできないと考えています。正直、私本人はお酒が大好きで(笑)。お酒を飲みながら楽しく遊ぶダーツもなくしたくないですね。
だからこそ「棲み分け」は大事になっていくし、やっていくべきだと思います。お酒ありの大会と、お酒一切なしのスポーツダーツの大会。どちらも存在していいと思いますし、ダーツ文化自体をなくさないためにも両方必要だと感じています。
日本において、早い段階からダーツに触れてもらう機会を増やす活動は、まだまだ始まったばかり。ですが、この活動を続け若いプレイヤーが増えた際に「力試し」の場所として、「スポーツダーツ選手権大会U-22」はこれまで以上に重要な立ち位置の大会になると感じました。新型コロナウイルスの影響で現在は開催を見合わせている状況ですが、若いプレイヤーにとっての「目標」「モチベーション」であり続けるよう、今後もさまざまな取り組みをおこなっていきたいと思います。
以上、へんしゅうちょうのインタビューでした!